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鋳物屋365日ブログ2025 ~その253~ 城跡と日本酒と月。足で巡る思考の整理術

2025.09.07

頭の中が少し散らかっているなと感じた時、私は決まって歩き出す。自分の足で一歩一歩、地面を踏みしめる感覚が、絡まった思考の糸をゆっくりと解きほぐしてくれる気がするからだ。そう、今日、9月7日は、まさにそんな「歩く」一日になった。

今日の最初の目的地は、福岡城跡。ライフワークの一つである「日本100名城」のスタンプを集めるためだ。気持ちの良い秋空の下、意気揚々と駐車場に車を停めたのだが、スタンプが設置されている場所までは予想外の距離があった。照りつける日差しと緩やかな坂道に、あっという間に汗が噴き出す。額から流れる汗を拭いながら、「まだ着かないのか…」と心が折れそうになった、その時だった。

目の前に現れた、巨大で荘厳な石垣。幾重にも積み上げられた石の一つひとつが、400年以上の時の流れを静かに物語っている。その圧倒的な存在感を前にすると、さっきまでの暑さや疲れがすっと引いていくのを感じた。ここで繰り広げられたであろう歴史のドラマに思いを馳せると、自分の悩みなどちっぽけなものに思えてくる。歴史との対話は、不思議と私を冷静にさせてくれた。

心地よい疲労感と共に福岡を後にし、夜は黒崎の街へ。ネットでおすすめされた焼き鳥屋さんを目指すことにした。ホテルから少し歩くことになったが、歴史散策で消費したカロリーを体が欲している。美味しいものへの期待感が、私の足を軽くする。もはや食欲が疲労に勝った瞬間だ。

カウンターに腰掛け、まずは一杯。今日の自分を労うように頼んだ日本酒が、乾いた体にじんわりとしみわたっていく。この感覚がたまらない。肴は、見た目も美しい「ちくわきゅうり」。何気ない一品に、その店の丁寧な仕事ぶりが垣間見える。昼間の城跡での出来事を反芻しながら、ゆっくりと杯を重ねる。最高の夜だ。

ほろ酔い気分で夜道を歩いていると、ふと空を見上げた。そこには、雲の合間から神秘的な光を放つ月が浮かんでいた。そういえば、今夜は皆既月食が見られるとニュースで言っていた。欠けては満ち、そしてまた地球の影にその姿を隠していく月の様子は、まるで人の心の移ろいのようだ。

今日は本当によく歩いた。福岡城の石垣を巡り、黒崎の街を歩き、そして今、月明かりの下を歩いている。一歩進むごとに、昼間の興奮が静まり、夜の満足感が満ちてきて、心の中が少しずつ整頓されていくのを感じる。歴史に触れ、美味しいものを食べ、美しい月を見上げる。そんなシンプルな行動の積み重ねが、明日への活力をくれる。もう少しだけ、この月光の下を歩いてから帰ることにしよう。